皆さんは「作りたい女と食べたい女」通称『つくたべ』をご存じでしょうか?
この作品は、料理を作るのが大好きな「野本さん」、食べるのが大好きな「春日さん」の2人の物語となっています。
今まであまりレズビアンの日常がテーマになっている作品は少なく、心の底から共感できるような作品が無かった…という人も多いのではないでしょうか。
ところが、この「つくたべ」では、そんな私たちレズビアンが求めていたようなレズビアンの日常が描かれています。
そこで今回は、「作りたい女と食べたい女」について、レズビアン当事者の私が徹底的にレビューしていきたいと思います!
作りたい女と食べたい女って?
画像引用:公式Twitterより
「作りたい女と食べたい女」は、もともと2020年3月にTwitterやPixivの個人アカウントにて発表されていた作品でした。
そんな個人アカウントの作品が、30万いいねを集めるほど注目され、2021年1月よりKADOKAWAのウェブコミック配信サイトでもある「ComicWalker」内レーベルの『COMIC it』にて現在も商業連載を行っています 。
宝島社の”このマンガがすごい!2022″オンナ編の第二位に選ばれ、2巻発売されている段階で累計20万部を突破するなど、話題の漫画として有名になりました。
ジャンルとしては、料理漫画と恋愛漫画となっており、ご飯と女性同士の恋愛がテーマの作品は、レズビアン女性の生きづらさだけではなく、日常に生きる彼女たちの社会に対する違和感が描かれ、特に女性たちに大きな共感を集めた作品となっています。
また2022年11月にはNHKにてドラマ化されるなど、世間に大きな影響を及ぼしている作品です。
作者 | ゆざき さかおみ |
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出版社 | KADOKAWA |
巻数 | 3巻(2023年2月現在) |
放送局 | NHK総合テレビ |
放映期間 | 2022年11月29日から2022年12月10日 |
話数 | 10話 |
出演者 | 比嘉愛未、西野恵未 ほか |
あらすじ
料理が好きで少食な野本さんは、ある日もっと料理をたくさん作りたい!というストレスから絶対に食べきれないであろう量の料理を作ってしまいます。
そんな時に、お隣に住んでいる春日さんの存在を思い出します。
きっと彼女であれば食べきってくれるはず…という思いから勇気を出して声を掛けたところから二人の交流が始まっていきます。
二人の大好きな料理という共通点から繋がり、いつの間にか春日さんに対して抱いている気持ちに気づく野本さんは…?
料理を作るのが大好きな「野本さん」
登場人物の一人でもある野本ユキさんは、料理を作ることが好きで、作った料理たちをSNSにアップすることが趣味なOLさんです。
SNSに写真をアップすることは楽しいものの、どこか物足りなさを感じていて、その理由としては実は少食ではあるものの、デカ盛りチャーハンやタワーのように積み重ねられたパンケーキを作りたいと思っていたからです。
現在は地元を離れてしまい、特に料理をふるまえるような友人もいないため、食べられる量を作っているのですが、物足りなさを感じる毎日を過ごしていました。
そんなありきたりな毎日を過ごしているところで、ある日会社で男性社員にこう言われたのです。
「野本さんって料理上手で、絶対いいお母さんになりそう」
好きでやっている料理を男性のためだと結び付けられることにクエスチョンを抱いてしまいます。
料理を作るのが好きなのは、もっとたくさん作りたい・誰かに美味しく食べてもらいたい、それだけの理由でした。
春日さんと出会い、少し不思議な生活が始まると、自分の本当の気持ちに気づき始めます。
本当の気持ちに奮闘している姿を見ていると、どこか応援したくなる、そんな読者がたくさんいる、そんな存在が野本ミキさんという人です。
食べるのが大好きな「春日さん」
メインキャラクターのもう一人である春日十々子さんは、食べることが好きな酒造メーカーに勤める営業職の女性です。
サバサバとした雰囲気で、体格も良く体力もあるということで、女性らしい外見というよりは、どちらかというと男性らしい外見をしています。
そんな外見だからこそ、様々な差別や偏見に苦しんでいる毎日でした。
ある日、定食屋さんでからあげ定食を注文したところ、隣の男性よりもご飯の量が少ないことに気づきました。
店主に聞いてみれば、良かれと思い
「ご飯、少なめにしておきましたよ」
との一言が返ってきたのです。
店主としては女性だから勝手に判断してご飯を少なくしたことが良かれと思った行動でも、春日さんからしたらただただ悔しくてたまらず、普通の量にしてもらえるようにお願いしていました。
社会ではこういった女性差別が多く見かけられますが、春日さんは疑問と感じることが多いそうです。
このように春日さんは、聞けない人は聞けないような「なぜ」を問えるほど、自分をしっかり持っている人で、なかなか思っていることをうまく伝えられないけれど、相手のことをまっすぐ見ている、そんな人が春日十々子さんです。
作ること 食べること を肯定し合える作品
見えにくい女性への偏見が取り扱われている
「つくたべ」は、野本さんが感じた料理を男性のためと結び付けたり、春日さんが女性だからとご飯の量を減らされたりと、実際に世界のどこかで今も起きている気づかれにくい女性への偏見問題が取り扱われています。
女性に生まれてしまったからこそ、社会に出れば女性という色眼鏡で知らない間に見られていて、女性らしさを求められ続けています。
そういった偏見に対して疑問を持っている女性も多く、この作品を通じて男性もこういったことを無意識にしていないか、自分を振り返るきっかけになった作品です。
レズビアンも1人の人間であるということがしっかり描かれている
「つくたべ」では、野本さんと春日さんの恋愛模様もストーリーに組み込まれています。
レズビアンという存在は珍しい、と思う人も世の中にはたくさんいますが、この「つくたべ」によってもしかすると身近にレズビアンがいるのかもしれない、と感じる人もいるでしょう。
作品内ではセクシャリティのことにも触れていて、食とジェンダーの視点も丁寧に描かれているように感じます。
作品では女性は一人ひとり違うという多様性な部分もしっかり描いており、女性の中でも生理に関する問題は人によっても捉え方が違います。
そういった日常的な小さな部分も広い、どんな女性でもただの1人の人間で、全てが同じ人はいない、ということをしっかり訴えられている作品です。
現実社会に目を向けられる違和感のない作品
この「つくたべ」という作品は、料理好きなOLと営業職の女性という、敢えてどこにでもいるような人物がメインキャラクターとして描かれています。
どこにでもいそうな人物だからこそ、自分の身近でももしかしたら…と周囲に目を向けられるような作品となっています。
女性だから、女性なのに、という言葉の呪縛を知らず知らずのうちにかけられている女性と、知らず知らずのうちに呪縛となる言葉を発している男性のそれぞれの目線に立って、改めて考えさせられる内容であることが、注目されている特徴のひとつではないでしょうか。
まとめ
さて今回は、ドラマ化されて話題にもなった「作りたい女と食べたい女」について紹介してきました。
レズビアンの登場人物ということで、興味を持った人もいるでしょうし、自分自身が作りたい女・食べたい女だから興味を持った人もたくさんいるでしょう。
この作品では、他の作品であまり見ないような女性の多様化という問題にも触れられつつ、レズビアンのほっこりする日常、二人の恋愛模様を見ることができる内容となっています。
「女性だから」「女性なのに」という言葉を掛けられ、見えない偏見と闘っている女性もたくさんいる世の中だからこそ、心のどこかでホッとするような「つくたべ」の世界に引き込まれてみてはいかがでしょうか。